桜の国から来たオメガ
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オメガバース設定、国の都合で番になるスミイサの話です。似たような話ばかりですが、こういうのが好きなんです…。本編とはなんの関係もないなんちゃってファンタジーです。世界観がおかしい所はどうかご容赦下さい(北方の領地なのにヒロが居るとか)。岩本ナオ著「金の国水の国」、葵梅太郎著「ひねくれ騎士とふわふわ姫様」の影響を受け、作品のオマージュがあります。Pixivに投稿した小説に、後日談を加えて同人誌にしました。イサミが妊娠する描写があります。スミイサの子どもとしてルルが生まれます。 オメガバースについて、特に作中で説明しておりません。また、オメガバースについて独自の解釈が含まれます。 A5/44頁/二段組/コピー本/300円
桜の国から来たオメガ
一 「えっ?私にD国のΩを娶れ、と…」 「うむ」 国王に謁見したルイス・スミスに言い渡されたのは、隣国の王族のΩをもらい受けるという役目だった。 「…恐れながら、私などよりもふさわしいαの方が、いらっしゃると思いますが…」 スミスの記憶が正しければ、今回隣国のΩを娶るαは、国王の甥のはず。 「それがのう、向こうに嫁いた王女からの手紙では、どうやら今度こちらに来る予定のΩは男のΩらしい」 「はぁ…」 男女問わず子をなす事の出来るΩではあるが、男性のΩは数が少ない。 「しかもΩでありながら、大柄な男で、αを打ち負かした事があるとかなんとか」 「…それは」 Ωは例え男性だろうとフィジカルでは、αに及ばない。一体どんなΩなのか。 「それを知った甥が『ゴリラみたいなΩは嫌だ』と言い出してな…それに彼よりも年上なのが難らしい」 「ゴリラ…」 (ゴリラって「森の国」に居る大きな猿だったよな、昔、商隊が連れてきたのを見たことがある…ってそれよりも、王族としての役目を果たせよ!) D国のΩがこちらに嫁ぐのは、T国との絆を深めるためだ。こちら側からもΩが嫁ぐ。数年前に王女がD国に輿入れした。そして今回はT国がΩを貰い受ける順番だった。王族の婚姻は外交の手段で、果たすべき役目だ。顔も知らない相手と結婚するのも、仕方のないこと。「運命の番」とはよく言われるが、婚約して番になったのならば、その相手が運命だろう、とスミスは考えている。 「すまんのう。少し甘やかし過ぎたわ…」 不満が顔に出たのだろう。王がわびる。 「しかし、私では格が釣り合わないのでは?」 スミスは王族に連なるαだが、傍系に過ぎない。爵位を持っているが、領地は北にある辺境だ。 「それは問題ない。相手も王族とはいえ、傍系のようだ」 「そうですか」 スミスにも今まで婚約の話は何度もあったが、領地が僻地過ぎて相手がなかなか決まらないままだった。 (まぁ田舎に来てくれるだけでも良いか。ゴリラってのが気になるけど) 「わかりました。大切なお役目、謹んでお受けします」 了承を伝えると、王はあからさまにほっとした顔になる。 「そうか!受けてくれるか。ではそのようにD国に伝えよう」 「はい」 謁見は終わった。
荒野の国に行くオメガ
一 「イサミ!大変、大変、たいへ〜ん!!」 「どうしたんだよ、ヒビキ」 道場で剣の訓練をしていたイサミの元に、ただならぬ様子のヒビキが駆け込んできた。よほど急いでいたのか、息が上がっている。 「イサミ、大変!」 「それはわかった。何が大変なんだ?」 「王家の三の姫様が、駆け落ちしちゃったの!!」 「…えっ…」 寝耳に水な話だった。 「困った事になった」 既に家督を継いで領主となって居る兄が、イサミを呼び出したのは、王家の第三王女が駆け落ちしてから、数日経った後だった。 「第三王女とT国の王族との、縁談話があった事は知っているな?」 「はい、存じております」 「だが王女の縁談話は、今回の件で無くなった」 第三王女には好いたαが居たのだ。身分違いだったが、どうしても諦め切れず、二人で逃げた。「草原の国」に向かう途中の山道で、あっさり追手に捕まったが、既に番になってしまっていた。番の居るΩを他国には嫁がせられない。 「相手側には、王女は重篤な病にかかった、と伝えたらしい。まぁ真相がバレるのも、時間の問題だがな…」 人の口に戸は立てられない。噂話はあっという間に広がるだろう。 「我が国とT国では、互いのαとΩが婚姻を結ぶ事で、平穏な関係が築かれてきた。今回は我が国から、Ωが嫁ぐはずだったが…」 王族同士の婚姻は、二つの国の友好関係を保つ。それが途切れるのを、両国ともに望まない。 「あいにく第三王女以外で、年頃のΩが居ない…お前を除いて」 「……」 「イサミ、お前にはT国に嫁いでもらう」 「はい、承知致しました。しかし…」 「なんだ?」 「俺はΩですけど男ですし、それにうちは田舎の貴族ですけど…それで大丈夫なんでしょうか?」 イサミは二十四歳、結婚適齢期のΩではあるが男性なため、なかなか相手が決まらなかった。王族に連なる家系だが、領地は山奥の田舎だ。そうイサミが言うと兄は顔をしかめた。 「確かに第三王女の縁談相手は、T国の国王の甥だった。うちとは格が違う。だから困った事になった、と言っているんじゃないか…」 イサミの兄は頭を手で押さえる。 「とにかくT国がどう出るか、待つしかない」
荒野の国で暮らすオメガ
一 「……」 シュッ、シュッと空気を切る音が聞こえて、イサミは目を覚ました。軽く伸びをして、身を起こす。T国へと嫁いで、数週間。まだまだ慣れないことも多いが、移り住んだ北領の城暮らしはだいぶ馴染んできた。 「…寒っ…」 窓を開ける。冬の入り口の季節、乾いた冷たい空気に、身を震わせた。 「……」 下を見ると、空気を切る音の正体は直ぐにわかった。城の中庭で、スミスが練習用の木剣を振るっていた。剣を握るスミスを初めて見る。 (へぇ…) T国とD国では、剣の形が異なるし、また剣術も型が違う。イサミは興味深く、スミスの動きを観察していた。剣を振るいながら動く足捌きは、まるで踊っているようにも見えた。 (綺麗な動きだな。無駄がない。手合わせしてみたいものだ) そう考えて、イサミは頭を振ってその考えを追いやった。無理な話だからだ。Ωには剣術は必要ない。領主の番になるイサミが、剣術の練習をしたい等と言い出せるはずも無かった。そのまま窓を閉める。室内はかなり冷えてしまっていた。 領主の番、そうは言っても、イサミはまだスミスと本当の番にはなっていない。結婚の儀式は終えたが、その後にスミスがイサミの部屋を訪れる事も無い。スミスは慣れない土地に嫁いで来たイサミを、大切に扱っては居るが、触れる事は無かった。 (いっそのこと、こっちから部屋に行ってやろうか……いや、そんな事、無理だ…) 自分から抱かれに行くのは、イサミには勇気がなくて出来そうもない。ひょっとしたらスミスは、イサミのヒートが来るまで待っているのかもしれない。それともΩとαとはいえ男同士、本当の番になる気はスミスには無いのかもしれない。どちらなのか、確かめる事も難易度が高そうだ。 「…はぁ…」 Ωだからといろいろと諦めてきたのに、Ωとして求められないのなら、自分の人生は何なのか…イサミはため息を一つ吐くと、もそもそと着替え始めた。
生活は続く
一 「あの、アウリィ様、D国の薬売りと申す者が城に来たのですが…城にD国の方が居るなら商品を見てもらいたいと…」 「ええっ、こんな時期に来るなんて珍しいな」 長い冬が始まった北領の地では、他国から来る商隊は少なくなる。D国では上質な薬草が採れるため、それを煎じた薬を売り歩く薬売りが居るが、訪れるのは春を迎えてからがほとんどだった。 「わかった。今、行くよ」 城の主であるスミスは、領地の視察のため留守にしている。留守を預かるのは、今の所まだヒロの役割だった。いずれはイサミが領主の伴侶として、スミス不在の時に、城内の差配をしていくだろう。 (本当の番になって、仲は良いみたいだし。そのうち跡継ぎが出来れば、北領も安泰になるな) そんな未来のために、まずは領主不在時にいきなり城に訪れてきたのが、本当にD国の薬売りかどうか確かめなければ、とヒロは腰を上げた。 「あ、こんにちは!D国から来た薬売りでミユって言います」 正面門には若い女性が待っていた。 「こんな時期に珍しいね」 「はい!ここにD国の方が嫁いだって聞いて、フライング気味に商売に来ちゃいました!」 「許可証、確認しても?」 「はい、どうぞ!」 ヒロは渡された許可証を確認する。王都で発行された、正式な商売の許可証だった。 「確かに…一人で来たのかい?」 「いえいえ、北領で商売されている商隊にくっついて来ました」 「随分と大荷物だけど」 彼女の荷馬車は、荷物で溢れている。 「せっかくここまで来たので、他では手にはいらない物を仕入れて帰ろうかと」 「ふ〜ん、商売熱心だね。わかった、ちょっと待ってて」 特に怪しい様子でもないのがわかり、ヒロはヒビキを連れてくる事にした。 「…辺境の地と聞いていたのに、なかなか立派な城じゃないですか。街もそれなりに栄えてますし」 ミユがボソリと呟いた声は、ヒロには届かなかった。 「こんにちは」 「どうも!こんにちは。私、ミユって言います」 「私はヒビキ。D国の人と会うのは久しぶりだわ。商品見せてくれる?」 「はい!」 ミユはそう言うと、敷物を広げ手際よく商品を並べた。 「わっ、これ、欲しかったんだ」 「こんなのも、ありますよ」 「嬉しい!他には?」 「これはどうです?……」 「……」 (う、何を話しているか、分からなくなってきたな…) ヒロはヒビキとミユのやりとりを、さりげなく聞いていたが二人は母国語で話しはじめた為、分からなくなってしまう。D国とT国では言葉が違うのだ。T国は交易の要衝地だから、T国の言葉が共通の公用語ように使われている。 (まぁ良いか。ヒビキさんも楽しそうだし) 久しぶりに同じ国出身の、同年代との会話は楽しいのだろう。会話ははずっと弾んでいた。 「ヒロさん!買い物終わりました。お待たせしてすみません!」 「ああ、終わりましたか?」 「はい」 ヒビキは買った品々を入れた袋を両手に抱え、嬉しそうに笑っている。 「お買い上げありがとうございます!また春に来ますのでよろしく!」 ミユは元気に一礼すると、馬車に乗り城を後にした。途中何度か振り返り手を振って、そして街道へと向かっていた。ヒビキとヒロは手を振り返し、馬車が見えなくなるまで見送っていた。 「良い買い物は出来たのかい?」 「うん、お陰様で。はい、これ、どうぞ」 小さな白い紙に包まれた物を、手のひらに乗せられる。 「これは?」 「薬草が練り込まれた飴。のどに良いのよ。ここは乾燥してるから」 「確かに冬は余計に乾燥するからな。頂くよ」 ヒロは包み紙を開くと、飴を口に入れる。不思議な味がした。
風邪を引いたら
一 「あ〜、今年の監査も無事に終わったな」 スミスは執務室で机に突っ伏していた。年に一度、王都から領地内へ、監査が入る。税収を決める他に、不当な手段で富を蓄えていないか、査察されるのだ。スミスのように王都から遠く離れた地を治めている場合は、特に厳しく検査される。 「お疲れ、直前に帳簿の数字が合わない時はどうなるかと思ったけど」 「本当に」 査察は無事に終わり、監察官たちも王都への帰路についた。大仕事が終わった開放感に、スミスと補佐役のヒロは包まれていた。 「…これでようやくイサミとのんびり過ごせる…」 ここ数日は忙しくて、イサミと顔も合わせられなかった。 (そういえば、王都の桜はいつ咲くんだろうか?D国への里帰りは無理でも、イサミに桜を見せてやりたいな…) 王都は一足早く春が訪れる。休暇を取り、二人で王都に行くのも良いかもしれない、とスミスは考えていた。 「おい、こんなところで休むなよ、休むなら自分の部屋に戻れよ」 「ああ、そうする…」 張っていた気が緩んだのか、放っておいたらこのまま寝てしまいそうなスミスは、声をかけられるとのろのろと立ち上がり、執務室を出ていく。 (よっぽど疲れてるのか?珍しいな) いつもよりも動きの鈍いスミスを見送った。 「あ、もう仕事終わったのか?今、お茶を持っていこうかと」 廊下でお茶のトレーを持ったイサミと会う。 「ああ、イサミ。お茶を用意してくれたのか、ありがとう。部屋で頂くよ」 「うん…」 イサミはじっとスミスの顔を見つめていた。 「どうした?」 (ひょっとして、寂しかったりしたんだろうか?) ここ最近は夜遅くまで帳簿合わせに追われていたせいで、夜もイサミと一緒には過ごせていなかった。 (しかしこう、じっと見つめられると照れるな。なんだか顔が熱くなってきたぞ…いや、顔だけじゃなくて身体もさっきからずっと熱いんだが…) 「…ルイス、お前、なんか顔がいつもより赤いぞ」 「…えっ、そうかな?イサミが見つめるから…」 「ちょっとこれ持って」 トレーを渡される。イサミはスミスの額に手を当てた。ひんやりとした手が気持ち良い。 「…やっぱり…お前、熱があるんじゃないか?」 「…へっ?」 「ニーナ先生に来てもらおう」 そう言われてスミスは、ようやくいつもよりも身体が熱っぽく、だるさを感じているのを自覚した。
桜の頃に
一 「ただいま」 「おかえり…って、お前、なんか臭い!酒飲んだな」 会合から帰って来たスミスは、出迎えてくれたイサミを抱きしめようとしたのに、イサミに避けられてしまった。 「…えっ?そうかな」 自分の匂いは自分ではよくわからない。確かに会合で酒は飲んだが、付き合いで少し飲んだ程度だ。イサミを見ると、口元を手で覆っている。 (ちょっと待て、そんなにオレ臭いのか!?) イサミの態度にショックを受け、呆然と佇む。そんなスミスに気が付いたイサミは、口元から手を外して、もう一度匂いを嗅ぐが、顔を顰めてしまう。 「…酒だけじゃなくて、いろんな人の匂いがする…」 「…ああ、うん」 会合には老若男女問わず多数が参加していた。その中にはαやΩも居たはずで、ひょっとしたらイサミはそれらのフェロモンを感じ取ったのかも知れない。 「とにかく、俺の所に来るなら湯浴みして、匂いを落としてからにしてくれ」 「わかった」 イサミの寝室から追い出されるのは、勘弁願いたい。スミスは素直に頷いた。 「イサミ、オレだ。入るぞ」 いつもよりも入念に湯浴みをしてから、イサミの部屋の戸を叩く。 「おう、どうぞ」 どうやら追い出されずに済みそうだ、とスミスは安堵した。番になってからずっと、夜にイサミの部屋を訪れる生活をしている。寝室を一緒にしても良かったが、夜遅くまで仕事に追われた、体調が悪くなった等、別々に寝たほうが都合が良い時もあるので、分かれたままだ。部屋に入ると、イサミはベッドで身を起こして本を読んでいた。スミスもベッドに腰掛ける。 「何を読んでいるんだい?」 「商人が書いた旅行記。いろんな国の様子が書かれていて面白い」 「そうか。イサミの故郷の事も書かれているのか?」 「ああ、それがさ……」 一日の終わりに、取り留めのない話をする。それが心地よくかけがえのない時間だった。 「そろそろ寝るか」 イサミは読みかけの本を、ベッドサイドテーブルに置く。スミスが部屋の灯りを落とした。 「……」 ベッドに横になると、イサミが身を寄せてきた。クンクン、と匂いを嗅がれる。しばらくすると満足したように頷いた。 「…うん、もうお前の匂いしかしない」 「イサミは、オレの匂いが好き?」 「…好き…」 「匂いだけ?」 「…匂い、以外も…」 その答えにスミスは笑って、イサミを胸に抱きしめた。

