スピカ
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2/16追記 自分が思っていたよりも早く在庫がなくなってしまいましたので、追加納入したいと思います。BOOTHの入荷メールを利用していただけたら幸いです。2/21〜23頃を予定しております。 オメガバース設定のスミイサ。デスドライヴズが襲来しない世界軸。オルトスを操縦するのは番が良いと言う事でイサミとお見合いするスミスの話です。ジェンダーロールの固定観念があるスミスになります。Pixivに投稿した小説に後日談を追加して本にしました。 オメガバースについて作中にて詳しくは説明しておりません。またオメガバースについて独自の解釈が含まれます。またイサミに兄(故人)がいた設定になります。 A5/44ページ/二段組/300円
運命の扉
「聞いたか?Ωだけのドローン部隊が出来るらしいぞ」 「ふ〜ん」 「なんだよ、反応悪いな」 訓練後の基地の食堂。ヒロと向かい合い、食事をしているスミスは、興味ないかとヒロに問われ、即座に無いと言い返した。 「スミスはΩが嫌いだからな」 「リョウマ」 そこにトレイを持ったアラカイが話に入って来た。そのままスミスの隣に座る。 「別にΩが嫌いなわけじゃない。オレだって、いつかはΩと番になりたいと思ってる」 「じゃあ、良い出会いのチャンスになるだろう?ドローン部隊はTS部隊との共同作戦もあるし…」 「そうじゃなくて、わざわざ軍人みたいな危険な職業に、つかなくても良いんじゃないかって事だ」 「スミスは考えが古いのさ。αはΩを守るもんだっていう」 そういうとリョウマは、今日のメインであるステーキにかぶりつく。スミスもヒロもアラカイも、第二性はαだ。タイタン中隊は、パイロットが全てαで構成されている精鋭部隊だ。 「なんだ、今どきΩには家庭に入って欲しいって考えか」 その考え方は今のΩには受け入れられないぜ、とヒロに言われ、スミスは片眉をひそめた。 「どうした?」 「…いや」 「それで振られたばかりだからな、こいつ」 「はは〜ん」 「…うるさい」 スミスは、いささか乱暴にステーキにフォークを突き刺した。確かにちょっと良いなと思ったΩと出会って、何回かデートをしたが、将来についての話になった時に、価値観が合わなさそうと断られたばかりだった。医学の進歩により、Ωの就労の幅は格段に広がった。ほぼβ女性と変わらぬ生活を送れるようになったΩ達は、不向きとされていた職業でも活躍し始めたのだ。軍隊では事務官や医官、整備士といった専門職以外に、操縦に性別に寄る差が無いドローン部隊への登用が増えていた。 「後方支援だけならまだ良いよ。だけどΩが前線に居ると敵に分かったらどうなる?弱い所は確実に敵に狙われる。もし捕虜にでもなったりしたら…」 それ以上スミスは言わないが、アラカイとヒロには伝わったらしい。 「まぁ、その心配も分かるけどさ」 「だから差別じゃなくて、区別や配慮は必要だと思ってるんだよ。オレは」 メンタル面はともかく、フィジカル面では埋めようの無い差が、αとΩの間には横たわっている。対等になる事はないとスミスは考えていた。 「それより今度のアド・リムパックなんだが…」 話題は、開催が近づいている合同軍事演習へと、変わっていた。 「ふふふんふ〜ん」 演習後のロッカールームで、スミスは鼻歌を歌いながら着替えている。 「上機嫌だな、スミス」 「ああ。とんでもないやつが現れたからな」 「例の自衛隊のパイロットか」 「あの動きを見ただろう。旧式のデクノボーであれだけ動ける。パイロットの腕か?整備士の腕か?確かめなきゃな」 「やっかいなのに、目をつけられたな。自衛隊も」 スミスは少し、いやかなりしつこい。この調子じゃ陸自のTSパイロットに一騎討ちの申し出くらいはするだろう。ヒロは肩をすくめた。 アド・リムパックでの合同軍事演習。攻守二手に別れての模擬戦で、スミスは演習場を稲妻のように駆け抜けた自衛隊のTSパイロットに出会った。演習後なのに、汗一つかいていないような涼しい顔で「死人は黙っていた方が良い」なんてのたまった彼、イサミ・アオ。名前と顔は覚えた。次は遅れを取りはしない、とスミスは気合を入れる。競り合うのに、相応しい相手を見つけたスミスは、久しぶりに高揚していた。ここまで胸が高鳴るのは、TSのパイロットに選ばれて以来だ。次の演習は、アメリカと日本が敵味方に分かれての模擬戦だ。またとない機会だった。 「出来るなら同条件でやり合いたいもんだ。あいつがライノスに乗ったら…どんな動きを見せるか、興味ある」 「おいおい、あんまり入れ込むなよ」 「わかってる」 ヒロは一応忠告する。 「スミス少尉」 呼ばれた方を向くと、ロッカールームの入り口に、アラカイが立っている。上官としての顔をしているのを見て、仕事の話だと悟った。 「なんでしょうか?アラカイ大尉」 「ボスがお呼びだ」 どのボスだ?と思いながら、先ほどの演習でとった単独行動で、上層部まで目をつけられたのかと辟易した。
お見合い
「結婚の意思を持つ者同士が、相手を知る為に、他者を仲立ちとして会う事をJAPANでは『OMIAI』と言うそうだ」 「はぁ、そうですか…」 お見合いと言葉自体は、スミスが好きな日本のサブカルチャーで知ってはいた。しかしまさか自分自身が、お見合いをするとは微塵も考えていなかったスミスだった。オレは確かに結婚したい願望はあるが、自分の意思でここに居ると言われると微妙だ、そもそも何でこんな事に…スミスは内心で愚痴る。幹部同士が会談に使用する応接室にて、お見合い相手が来るのを、キング大将と共に待っている。ソファーは上質な物のはずなのに、何処か居心地が悪かった。しばらくすると、ドアをノックする音が響いた。 「どうぞ」 「失礼します」 扉が開く。日本の自衛隊指揮官であるカワダ海将補が入ってくる。その後ろに続いて、室内に入って来た人物、彼こそがスミスの見合い相手であるイサミ・アオだった。 「いやぁ、お待たせしました」 「ようこそ」 イサミがスミスの目の前に座る。秘書官が人数分のコーヒーと茶菓子を、テーブルに置いて下がっていった。 「二人とも、演習で顔は合わせていると思うが、改めて紹介しよう。こちら陸上自衛隊特殊機甲軍所属イサミ・アオ三等陸尉だ」 「海兵隊第三海兵遠征軍所属のルイス・スミス少尉だ」 「よろしく」 「よろしく」 スミスが手を差し出すと、イサミはぎこちなく握手をした。節くれだった指、頻繁に操縦桿を握るために豆が出来た掌は、スミスと同じ男性のものだった。スミスは、失礼にならない程度にイサミを観察する。アジア人らしい切れ長で細い目、黒い瞳は凪いだ夜の海のように静かだ。体つきも軍人らしくかっちりとしている。男性でも線が細い者が多いΩにしては、恵まれた体格をしていた。イサミは、やはり見た感じはαやβ男性のようだった。スミスがこの場に居るのは、イサミに興味を持ったからに他ならない。演習で自分を出し抜いた男。今まで見た中でも、群を抜いたTS操縦技術を披露した彼の事が知りたくて仕方がない。しかもフィジカルで、αに劣るΩだという。未だにスミスは信じられないでいた。 「さて、早速だが本題に入ろう。二人とも新型TSのライジング・オルトスは見ただろう。あのTSは二人で操作する」 「シミュレーターでの演習での結果、メインパイロットにスミス少尉、コーパイロットにアオ三尉が選ばれた。このアド・リムパックの演習中にて、実機での操縦を行ってもらう」 「TSのみの模擬戦も行う予定だ。そのつもりで準備をしていて欲しい」 「イエッサー」 「了解です」 「システムの運用が難しく、開発者達は君たちなら…と期待しているようだ」 「αとΩの絆を利用したい、なんて突拍子もない事を思いつくもんだ。たまたま稀有なΩのTSパイロット、アオ三尉が居たからこそだろうが…」 「……」 「……」 「この演習が上手く行けば…ゆくゆくは二人に番になって欲しい、とも提案されている。もちろん将来に関わる重要な事だ。強制は出来ない、が頭の片隅に入れておいて欲しい」 「いきなりな話で、二人とも困惑しているだろう。それでお互いを知る為に『お見合い』してはどうかと提案したんだが…」 このお見合いは、カワダ海将補の提案だったらしい。スミスがアニメやコミックで得た知識だと、この後「アトハワカイフタリニマカセテ」と二人きりにされて、「ゴシュミハ?」「オチャトオハナヲショウショウ」という会話になるはず。 「番になるかどうかは別として、複座式という新しい規格のTSに乗る事になる、初めてのパイロット同士だ。どうか連携が上手くいくように、対話してほしい」 「それでは、我々は席を外す。後は若い二人に任せるよ」 本当にそう言うんだな、と妙に感動したスミスだった。
イサミ・アオにおいては
「兄ちゃん、乙女座の一等星はスピカって言って、一つの星に見えるけど本当は二つなんだって!」 「おっ、ちゃんと勉強してきたな」 「俺の星座だけど、乙女座って、なんか嫌だな。男なのに…。もっと格好良い星座が良かった」 「じゃあ、イサミはどんな星座が格好良いって思う?」 校外学習でプラネタリウムに行ったイサミは、久しぶりに帰省した兄に、習った星座の話を一生懸命していた。 「う〜ん…鬼!とか」 「鬼か、そりゃ確かに強そうで格好良いな」 世間ではこの所、鬼と戦う少年達の漫画が流行っている。 「まだこの世界で知られていない星を見つけると、名前を付けられるらしいぞ。たくさん見つけて鬼座を作るか?イサミ」 「でも、俺、そこまで星に興味ないや」 「そうか。でもいつか、お前だけの星を見つけられたら良いな」 「うん」 一回り年齢の離れた兄が、イサミは大好きだった。兄が帰省すると両親も喜んでいて、家が明るくなる。就職してからは、盆と暮れくらいしか、帰省しなくなって、イサミは少し寂しさを抱えている。 「兄ちゃん、仕事大変?」 「大変だけど、やりがいはあるぞ。なんてったって、日本の平和を守る仕事だ」 「俺も、兄ちゃんみたいな自衛官になりたい」 「本当か?」 「うん」 「そうしたら、一緒に日本の、世界の平和を守ろうぜ!イサミ」 「うん!」 数日後、兄は勤務地へ戻っていった。イサミの頭を撫でてくれる、兄の大きな手。左手に金属ベルトの腕時計をしている。兄が成人した時に、父親から贈られたものだ。 「またな、イサミ。いい子にしてろよ」 「いってらっしゃい」 「いってきます」 両親と一緒に、兄を見送った。 あの日から兄は帰ってこない。家は静かになった。 「お見合い…ですか?」 アド・リムパックでの最初の演習が終わった後、イサミは自衛隊の指揮官であるカワダ海将補に呼び出された。 「日米で極秘に開発されていた新型TSのコーパイロットに、アオ三尉、君が選ばれた」 「それがどうしてお見合いになるんです?」 「新型TSは複座式だ。資料を見てくれ」 カワダはレポートを渡す。 「新しいシステムが搭載されている。脳波を使用したものだ。コーパイロットが操作を担当する」 「各機のセンサーや管制機のデータリンク無しで戦場の脅威判定が可能となる…ですか」 「αとΩの番で、動かしてみたいそうだ」 「…はい?」 言われた意味が分からない。カワダも困惑したような顔をしている。 「どうにも、αやβ同士だと上手く動かないらしい。それならαとΩなら…という理由だそうだ」 全く開発者達は、突拍子もない事を考えるとカワダは言う。 「それでアオ三尉、君に白羽の矢が立った」 イサミは稀有なΩのTSパイロットだ。 「メインパイロットはαだ。システムが上手く稼働すれば、いずれは番になって欲しいそうだ。それで実際にTSに搭乗する前に、お見合いをしてみたらどうかと提案した」 「…冗談ですか?」 「あいにく冗談は苦手でね」 カワダはもう一つのレポートを渡す。男の写真が貼られていた。今日の演習で、イサミについてきた唯一のパイロット。名乗られたが、名前は忘れていた。 「メインパイロット候補で、君のお見合い相手だ。ルイス・スミス。海兵隊所属だ」 「……」 「優秀な男らしい。…この話は君にとっても、悪い話ではないと考えている。前に駐屯地司令官からも、勧められたそうだが、軍隊のような組織に、Ωが在籍するなら番がいた方が安全だ」 「はい…」
スピカ
「全っ然、イサミと話す機会が無い…」 演習後のブリーフィングが終わり、ほとんどの隊員達が出ていった会議室で、スミスは机に突っ伏している。 演習、演習、また演習。アド・リムパックでの日々は、演習とその後の総括で追われていた。各国でのティタノストライドの運用が、本格的に行われるようになってからの合同軍事演習。既存の部隊とTSの連携を確かめる為の演習は、休養日を挟みながらも、既に一ヶ月半も続いている。通常で有れば、アド・リムパックはこの時点で終了となるが、今回は倍の期間、三ヶ月間行われる予定である。 「お〜い、大丈夫か?バテたか?」 そんなスミスにヒロが声をかけた。スミスは顔だけ、ヒロの方へ向ける。 「残念ながら、そんなにやわじゃない。…交流を深めろ、と言いながら日程がキツキツ過ぎじゃないか…」 「意中の彼に会えなくて、不満みたいだな…あれ?この間の休養日に、デートに誘うとか意気込んてたじゃないか?」 自衛隊員のイサミとお見合いした事、彼と新型TSに乗る事、そして番になるよう勧められている事は、訓練兵時代からの付き合いで親友であるヒロにだけは話をしてある。他はアラカイと上層部だけが知っている事だ。 「ああ、あれね…うん、確かにイサミとは過ごしたよ。ダイダラ隊の隊長付きでね。しかもひたすらトレーニングに付き合っただけで終わった。訓練の延長みたいだったよ」 休養日に、イサミがどう過ごしてるのかが、気になって声をかけた。OMIAIの基本中の基本、趣味を知るというのを実践しようと思ったのだが…。 「休み?トレーニングをして過ごしている」 イサミは、相変わらず素っ気ないが、それで引くスミスではない。 「トレーニングか。一緒に付き合っても良いか?」 「…わかった」 そうして迎えた休養日、ウキウキしながら指定されたトレーニングルームに行くと、イサミだけではなく、ダイダラ隊の隊長であり、自衛隊TS部隊の指揮官、カーネルサタケが居た。 「スミス少尉か。噂はかねがね聞いている。…休みの日にもトレーニングに打ち込むとは、熱心だな」 「……」 思わず敬礼で答えてしまったスミスであった。そうして自主トレーニングというよりは、むしろ訓練に近い運動をこなすはめになる。イサミのストイックさと、自衛官であろうとする意思の強さが思い知らされた一件だった。トレーニング後、ダイダラ隊の隊員と食事をして、イサミの仲間達との顔合わせが出来たのは良かったが、結局はイサミとはあまり話せなかった。 「…ああ、でもイサミの汗の匂いが、なんか甘い感じがして…やっぱりΩなんだなって」 「ヘンタイくさいな、やめたほうが良いと思うぜ」 ヒロは、思わずニヤついてしまっているスミスに釘を差した。スミスは軍人としてTSの操縦はもちろん、状況判断にも優れ、度胸もある。仲間を思い、そして人を率いる力もある。上層部が、期待をしているのも知っている。人間としても魅力があり、付き合っていて気持ちの良い人物で見た目も良い。αだと言われたら、大抵の人が納得するような能力の持ち主だ。そんな彼が意中のΩに対して、もたついて、上手く事が運ばないのを見ると、微笑ましくも何となくじれったさを感じてしまう。ヒロは演習時に見た、イサミの姿を思い出す。クールビューティという言葉が似合う、凛とした印象だった。スミスの理想は、家で帰りを暖かく待ってくれる人だ。イサミはどうにも、すんなりと家庭に入ってくれるような感じには見えなかった。運命の相手が、理想とは懸け離れている。 「明日からは新型TSに乗っての訓練が始まるだろう?彼と会う時間も増える。頑張れよ」 人生はままならないがそれでも、出来れば上手くいって欲しいものだ、とヒロは願っている。
二つの星
「なぁ…こういう時って、どうするのが良いんだ?自分で脱ぐのか、それとも…」 お前が脱がすのか?とイサミに聞かれ、スミスは真剣に悩むことになる。 「ああ、それは非常に難しい質問だな」 番になる事を決めた二人が居るのは、基地内にある逢引で使われる部屋。大きめなベッド、椅子と小さいテーブルが置かれている。もちろん非公認だが、軍で自由恋愛が禁じられてはいないので、こういった部屋が複数あるのだ。 番の契約を交わすには、αが性交渉中にΩの項を噛む必要がある。イサミにはセックスの知識は一応あるが、経験が無い。こういう時は、自分から服を脱いで良いのか、それとも脱がしたいものなのか…。スミスとしては、どちらでも良い。恥じらいつつ、あるいは大胆に自ら肌を晒してくれるのも良いし、複雑な服でなければ、1枚ずつ取り払っていくのも良い。 「オレはどちらでも良い」 正直どちらも興奮する、とまでは言わなかった。 「そう…」 イサミは覚悟が決まったのか、腕時計を外すと丁寧にサイドテーブルに置く。次に着ていたTシャツや短パン、下着を脱ぐと、きちんと畳んで椅子に置いた。そうして最後に彼自身を、畳むようにベッドの上に、ちょこんと正座する。 「……」 「あの…なんか、おかしかったか?」 イサミは、じっと自分を見つめたまま、何も言わずに居るスミスに、自信なさげに問う。 「…良い…」 「えっ?」 「いや、何もおかしくない。次もそうしてくれ」 「お、おう…」 良く分からないまま、イサミは頷く。スミスも着ていたTシャツを脱ぐ。乱雑に椅子の背に置いた。チャリンと音がした。見るとネックレスに、ドッグタグと指輪が二つ通してあった。 「それ…」 「ああ、両親の形見なんだ。両親がしていた結婚指輪」 「……」 「音が気になる?外しとくか」 ドッグタグにサイレンサーの外周カバーを付けていても、金属同士が触れ合って音がしてしまう。 「いや、大丈夫」 (スミスも、大切な人を亡くしているのか) スミスは一糸纏わぬ姿になると、部屋の明かりを落とし、ベッドに上がる。ギシッとベッドが鳴った。イサミは思わず身構えてしまうが、後ずさる事はしなかった。スミスがイサミの頬に手を添える。その手が少し震えたようで、ひょっとしたら、スミスも自分と同じように緊張しているのかもしれないと思った。イサミも手を重ねる。 「…まだ、何もお前の事、知らないままだ」 出会って、お見合いをして、二ヶ月くらいしか経っていない。 「そうだな。…オレの事を知って欲しい…そうしてイサミの事を教えてくれ」 「ああ、わかった」 イサミはそっと目を閉じる。唇が重なった。
理想と現実
「誰もお前みたいなΩを、番には選ばないぞ!」 「それで結構だ。番なんて欲しくはない」 売り言葉に買い言葉。しかしイサミは、その時は本心からそう思っていた。 「……」 ふと目が覚めた。夢をみていたような気がする。部屋はまだ暗く、枕元の時計を確認すると真夜中だった。 「…う〜、イサミ…」 イサミが身体を動かしたので、隣で寝ているスミスが、寝ぼけながらイサミを探す。起こしてしまったかと思ったが、しばらくして規則正しい寝息が聞こえてきた。イサミもまた眠る為に、体勢を変えた。 「……」 ぼんやりと天井を見ながら、先ほど見た夢を思い出していた。中学生の頃の夢だった。イサミがΩだとわかり、嫌がらせのような真似をしてきたαの同級生と喧嘩になり、叩きのめした事があった。その相手の名前も顔も覚えてはいないが、その時に捨て台詞のように、「お前を選ぶαなどいない」と言われた事は、どういうわけかはっきり覚えている。それで構いはしない、番など欲しくはないと言い返した。確かにそう考えていたし、Ωである自分を、厭わしく思っていたイサミは、番を持たなくて済む道を探していた。 (それなのに、まさか番を得るとはな…) 隣で眠るスミスを見る。いつの間にやら、二人で眠る事にも慣れてしまった。 イサミはスミスとアド・リムパックで出会い、お見合いをして番になった。まだ籍は入れていないが、一緒に暮らしている。このまま共に暮らしていけば、いつかは子供も授かるかもしれない。そこまで思いを馳せた自分に、驚きもする。男性でも、子供を宿せる性であるΩのイサミだが、そんな未来を今まで考えた事もなかった。 (俺は随分と変わってしまった) イサミを変えたのは、スミスだった。 「よう」 「アウリィ中尉」 「久しぶりだな。こっちには慣れたかい?」 「ええ」 課業が終わり、帰宅しようかと思っていた所で、ヒロと会った。イサミは自衛官だが、今は米軍海兵隊へ派遣されている。ライジング・オルトスのコーパイロットとしてではなく、脳波を使用したシステム開発のテストにも参加していた。 「スミスとはどう?上手くやれてる?」 「あ、はい」 少し照れたように、イサミは答える。 「そりゃ、良かった。あいつ良い奴なんだけど、なかなか相手に恵まれなくてさ」 「それは…なんか意外だった」 スミスはαとしても優秀な男だと、イサミも思っている。Ωからもβからも引く手あまただと思っていたら、恋愛に関しては、うまくはいかなかったらしい。ヒロも頷いている。 「相手には家庭に入ってもらいたい、なんて理想があったからなぁ。スミスは」 「…えっ?」 スミスの、理想?初めて聞いたそれに、イサミは思わず固まってしまった。 「あ、前の話だよ。イサミと会う前の。今は違うと思うぞ?」 「そう、ですね」 気にしていないふうに、イサミは装った。そうしてヒロと別れて、家路についた。

